Fanatic Exclusion
時に人は誰かを好きになり、そして嫌いになる。
それは一対一の関係とは限らない。複数の人々が同じ誰かを好きになったり、または嫌いになることもあるだろう。青春映画のように、もしくはサスペンスドラマのように愛憎渦巻くストーリーが其処にはあるのかもしれない。
或いはその”誰か”が著名人、例えば芸能人のような(容易には)手が届かないであろう人物であれば、その人物に好意を寄せる人達がまるで共通の趣味を持った友人達のように同好の士となることもあるだろう。
そんなファンと呼ばれる人達の話。
ファン達は色んな方法を以って、『推し』と呼ばれる著名人へと好意を募らせていく。
コンサートやファンイベントのような『現場』へ足を運ぶこともあるだろう。今は著名人もSNSも運営していることも多いから、それを欠かさずチェックしてファンレターのように推しへ想いを伝えることもあるだろう。
そうやってファン達は『推し』のいる『現場』へと集まっていく。
ファンは推しへ好意を寄せている。
しかし、ファン同士が前述のように仲良しになるかと言えば、勿論そんなこともないだろう。推しとの交流だけが目的であり他のファンとの接触は避ける人もいるだろう。
私自身も積極的にファン同士の交流をしたいとは思わない、どちらかと言えば人見知りをするタイプの人間である。けれどもファン同士で話す機会があればできるだけ社交的に振る舞うようには心がけているし、それで仲良くなれて好きな『推し』の話で盛り上がることができれば楽しいのでそれに越したことはない。
そうやってファン同士で話していると、推しと呼ばれる人から「ファン同士が仲良くしていて嬉しい」と言われたこともある。私自身が推しと呼ばれるような存在になったことはないので想像にはなるが、自分に好意を寄せて集まってきたファン達が自分を介して仲良くなっていくというのは、やはり嬉しいものなのだろう。
そうは言っても、先にも述べた通り、ファン同士の交流を求めないケースもある。また、交流した結果として、仲良くはなれなかった関係性が出来上がることもあるだろう。ファンが増えれば増えるほど、全員が仲良しの集まりであるなんてことは、現実問題としてあり得なくなっていく。
自分の場合、そういう好ましくない関係性が出来上がってしまった場合は、まずその人物や集団とは疎遠に振る舞うように努める。
求めない交流を求めてくる人物は『現場』にいたところで、或いは好ましくない(時には嫌いな)人物が同じ『現場』にいたところで、主目的であるところの『推し』には本来何ら関係ないからである。
ところが関係ないとも言ってられない場合も、時には起こる。
個人的な経験則で言うとそれほど規模が大きくないファンのコミュニティが出来ている場合が多いが、疎遠である状態のままで現場にいることが難しくなっていくことがある。
それはコミュニティが今の状態であることを望まないファンがいた時である。
『彼』(或いは『彼女』)がコミュニティに従属する人であればコミュニティに属さない人を、逆にコミュニティに属さない人であればコミュニティに従属する人達を、排除したいと思っている。もしくは、排除しようと既に行動を始めているのかもしれない。
すると其処に諍いが起こる。
疎遠なままでいられなくなった場合、人はどうするだろうか。
私の場合であれば、基本的に『逃げる』ことを選ぶだろう。人によっては『戦う』ことを選ぶかもしれない。そしてその様子を外から見ていた人が『近づかない』ことを選んでいるかもしれない。
いずれにしても、戦い続ける人達が奇跡的なバランスで残り続けたりでもしない限りは、推しの下へ集まるファン達は減っていくだろう。最後に残るのは排除を働きかけた『彼』が、或いは戦って『彼』を排除した人だろう。
元はただのファン(fan)だったはずなのに、狂気的(fanatic)なまでのその想いが、排他を呼ぶ結果となってしまった。
これは単なる想像のお話ではなくて、実体験も含めた話である。
何気なく足を運んだイベント会場で既にあるファンの雰囲気が合わずに二度と行かなかったことなんで数えきれないほどあるし、元々は仲良かったファン同士がいつの間にか争いはじめて気疲れしてしまい離れていったこともある。
一方で自分が気付かなかっただけで、自分自身または自分が属するコミュニティが原因で離れてしまったファンもきっといることだろう。
そういうことを考えるようになって、ファンとして現場へ参加する時には適度にバランスを取ることを意識するようになった。
仲良い人達とは今まで通り仲良く接するけれど、初対面の人やファンとの交流を求めてない人には適度な距離感を持ちつつ接したり。適度な熱量をキープするように特定の現場へ行き過ぎたらしばらく参加しない冷却期間を置いてみたり。
ただ好きな場所へ行って好きな人に会うだけにそんな気を遣う必要はないとも思うけれど、なんとなくこれくらいの距離感と温度感を保っている方が結果的にちょうどいい感じで楽しめている気もするので悪くない。
< Source of Photo : Keenan Constance from Pixels >
