『Still Wakes the Deep』を遊んだ話
『STILL WAKES THE DEEP』をクリアまで遊んだので感想メモ。
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ホラーゲームというジャンルを遊ぶことは少ないのだけど、Xbox Game Passに入っていた本作『Still Wakes The Deep』が今月12月半ばで配信終了となるということでプレイしてみることにした。本編はリリース当初に(おそらく遊ぶ機会はないだろうと思って)ゲーム実況配信を見てしまっているのだが、ほとんど内容を覚えていないのでほぼ初見のような気分でプレイした。
なお、今回プレイしたのは『Still Wakes The Deep』本編のみであり、2025年6月にリリースされたDLC『Still Wakes The Deep: Siren's Rest』は未プレイである。
(※本稿はストーリーのネタバレを含みます)
ストーリー
公式サイトの紹介文より
1975年、スコットランドの沖合にある石油掘削施設「ベイラD」で災害が発生した。壊れかけたリグを操作して生き残り、仲間を救おう。
主な登場人物
- カズ(カルロス・マクレリー):本作の主人公。家に妻子を残して単身「ベイラD」で働く。
- スーズ:カズの妻。ある事情からカズと喧嘩をしており、カズに対し離婚調停を行っている。
- ロイ:カズの友人で、スーズの(おそらく)兄。「ベイラD」ではコックとして勤務。持病に糖尿病がある。
- レニック:「ベイラD」の所長。従業員たちから嫌われている。
- ブロディ:「ベイラD」で働く作業員。DLCの主人公レイラは彼の娘である。
- フィンレイ:「ベイラD」で働く作業員。登場する作業員の中で唯一の女性。
- The Shape(※仮称):海底に眠る謎の肉塊のような生物。「ベイラD」で発生した惨劇の元凶。
あらすじ
舞台は1975年、スコットランドの沖合に浮かぶ石油掘削施設(石油リグ)「ベイラD」。
主人公は石油リグ「ベイラD」で働く作業員の男性カズ。彼の妻であるスーズから送られてきた離婚調停の手紙を、カズが読んでいる場面から物語は始まる。
カズはベイラDで勤務をする前に暴力事件を起こしてしまい警察から追われている。警察から逃れるために友人であるロイの紹介でベイラDで4ヶ月間働くことを決めた。しかし、その決定に対して妻のスーズは強く反対しており、カズはスーズが眠っている間に家を抜け出すようにベイラDへと出発したのであった。
宿舎の自室から出て食堂へ向かうカズ。食堂でスーズから送られた手紙の内容についてロイと話していると、所長レニックから事務所へ来るように呼び出される。カズが事務所へ向かうと激昂しているレニックから突然の解雇、そしてベイラDからの退去を言い渡されてしまう。警察からカズの暴力事件について連絡が届いており、それを知ったレニックが激高したためである。
カズがベイラDから退出するべくヘリポートに向かうと突然施設が大きく振動し、その振動でカズは海へと落下してしまう。落下の衝撃で気を失ったカズは仲間たちによって救出されて目を覚ます。すると、ベイラDの施設は大きく損壊しておりパニック状態となっていた。
損壊した施設に対応するべく施設内を回り始めるカズ。その施設内で目撃したのは、施設を侵食するように天井や壁を突き破った謎の触手、そしてその触手と同化してクリーチャーへと変化したかつての仲間たちであった…。
ネタバレ
謎の生物 "The Shape"
突然ベイラDを凄惨な惨状へと変化させた正体不明の肉塊。それは石油掘削ドリルの衝撃が原因で目覚めた、スコットランド沖の海底に眠る謎の生命体であった。
その生命体の正体については物語において言及されることも一切なく、名前からあらゆる情報までそのすべてが不明である。本作の海外ファンからはこの謎の生物は"The Shape"と呼ばれている。本稿においてもそれに倣い、以降この正体不明の肉塊を"The Shape"と称し、統一するものとする。
"The Shape"が目覚めたきっかけについてはレニックや作業員たちの会話から伺うことができる。
カズがレニックがいる事務室へ向かう道中で聞く作業員たちの会話から、掘削ドリルに『何か』が接触してしまったために作業の継続ができなくなるトラブルが発生していることが分かる。そして、事務室でのレニックとの会話中に誰かから電話がかかってくるシーンがあり、おそらく作業員から「トラブル」に対する報告がなされた電話であると思われる。激高しているレニックは電話の相手に掘削を強行するように伝えて電話を切る。レニックの維持に従い掘削を継続した結果、『何か』、つまり"The Shape"が目覚めてしまい、掘削ドリルを経由してベイラD全体を一気に侵食してしまったのである。
"The Shape"の本体と思われる部位は掘削ドリルを中心に発光しており、序盤は青白い光で、そして終盤は禍々しい赤い光でベイラDを照らしていた。
"The Shape"は石油のような体液(或いは掘削された石油に混じった体液)を分泌しており、それに触れた作業員をクリーチャーへと変化させてしまうのであった。
クリーチャー
"The Shape" の体液に触れ、感染してしまったかつて人間だった生物。
感染した人間は肉塊と触手に侵食されてしまい、人間だった時の姿の名残は徐々に失われていき、クリーチャーへと変貌してしまう。クリーチャーは生前の記憶がわずかに残っているようでありうわ言を呟き続けており、人間を見つけると有無を言わさずに襲い掛かってくる。
"The Shape" やクリーチャーに近づくと視界(精神)が汚染されてしまい、幻視・幻聴などの症状が発生する。幻視・幻聴の内容は人によって異なるようだが生前の強い想いが反映されることが多く、主人公カズの場合は残してきた妻スーズとの口論の記憶に苛まれてしまうことになる。
個人的な印象としては、"The Shape"はギリシャ神話の怪物セイレーンに近い生物であるように感じた。
"The Shape"はセイレーンのような美しい女性の姿ではなく謎の肉塊でしかないが、大海原に出た船乗りたちの精神を侵食していくさまはまさに「海の恐怖」を体現する存在であるからである。
…などとプレイ中に思っていたが、本編クリア後にDLCを見たらサブタイトルが「SIREN’S REST」(セイレーンの休息)であったので、本当に"The Shape"はセイレーンをベースにして再構築された存在なのかもしれない。
崩壊するベイラD
プレイを進めているとみるみるうちに崩壊していくベイラD。
いくら巨大生物"The Shape"が引き起こした大きな衝撃だったとは言え、いくらなんでも壊れやす過ぎではないかと思うぐらい簡単に壊れていく。この壊れやすさについても理由があり、元々ベイラDはとても老朽化した施設なのである。
ベイラDを所有する企業であるカダル社はさらなる石油掘削施設を作るために、既存のベイラDの維持にはコストをかけていない。そればかりか従業員のボーナスを削減するありさまであり、従業員からはストライキを起こされている始末である。大半の作業員が所長のレニックを毛嫌いしているし、レニック自身も常にイライラしているのはそのようなブラック体質な企業風土が大きな原因であると思われる。
そのような状況なので適切なメンテナンスが行われているとも考えづらく、もしかしたら施設の一部は"The Shape"の衝撃を受ける前に壊れていたのかもしれない。
その後の展開
崩壊していくベイラDから脱出しようとするが、救助船は一つを除いて壊れており、その残った一つも利用しようと取り外した時に大海原へとリリースされてしまう。
救助船をすべて失ったことを知った所長レニックは多くの作業員を残してヘリコプターでの脱出を試みるが、離陸直後にレニック(或いは同乗していた他の作業員)は既に感染してしまっており、すぐに墜落してしまう。しかも大海原に落ちるわけではなく、よりにもよってUターンしてベイラDに直撃してしまうため、以降感染したレニックがクリーチャーとなってカズ達に襲い掛かってくる始末である。
この時点でベイラDからの脱出手段はすべて失われているのだが、それでも沈没するベイラDを少しでも延命するためにカズや作業員たちは施設内を奔走することになる。ブロディやフィンレイの指示に従って壊れた設備を再起動したり、沈没を防ぐために設備を稼働させていく。
その道中でかつての仲間たちはクリーチャーの被害にあってどんどん命を失い、そしてクリーチャー化して襲い掛かってくるようになってくる。
糖尿病の発作が発生してしまい動けなくなったロイ。崩壊していく施設内を駆け回り、ようやくたどり着いたロイの自室でインシュリンを手に入れたカズがロイの元へたどり着いた時には既にロイは絶命していた。
その頃には施設内の生存者はカズとブロディ、フィンレイの3人だけになっていた。
3人は最終手段としてベイラDの内部に海水を入れて施設の大半を沈ませることで、一部海面から浮いた箇所へ避難しようとする。しかし、ベイラDを浸水させた影響で施設の下層にいたブロディが水没してしまう。
万策尽きた状況下でフィンレイは"The Shape"にせめて一矢報いると言い、石油で炎上させようと"The Shape"の元へ向かおうとするが、崩壊する施設に巻き込まれてしまう。フィンレイは"The Shape"をベイラDで始末しないともっと大きな被害が出てしまうとカズへ告げ、物語の始まりにカズから渡られたライターをカズへと返して息を引き取る。
ベイラDの最後の一人となったカズはライターを受け取り、"The Shape"の内部へと歩を進める。
そして"The Shape"の中央部で火のついたライターを石油の中へ落とすカズ。
大きな爆発がカズを包みこみ、石油掘削施設ベイラDにいた全ての命と共には惨劇は終わるのであった。
完走した感想
ゲームの印象
- ホラー映画の主人公の立場をプレイヤーとして追体験するゲーム
本作品の物語に分岐はなく、一本道のシナリオである。
また、探索要素も室内で必要なオブジェクトを取得・操作する程度で基本的にはプレイヤーが向いている方向へ進めば大半なんとかなるという、これまた一本道なゲームでもある。
開発元である「The Chinese Room」の作品はストーリー性のあるウォーキングシミュレーター系ゲームを多くリリースしているようで、私自身は本開発の作品は初プレイではあるが、今作『Still Wakes the Deep』もジャンプ・ダッシュなどのアクション要素は含むものの、基本的には過去のウォーキングシミュレーターの系譜を継ぐゲームとなっている。
その結果としてプレイ中は終始物語を追っている感覚で進行できるため、まるで映画の主人公を体験しているような気分になれるゲームであった。
ゲームシステム
本作のゲームシステムは、ウォーキングシミュレーターに以下のアクション要素が加えられたものとなっている。
- QTE:崩壊する施設に巻き込まれないように進む
- ステルス:クリーチャーに見つからないように進む
- 時限要素:上記以外の施設の崩壊、クリーチャーからの逃亡などのタイムアタック
それぞれのアクション要素に高度な操作を要求されることはぼぼない。ただ、崩壊した施設と悪天候の海がもたらす不安を表現するかのように、道中は真っ暗と表現して差し支えないほどに暗いステージが多い。そのため、ステルスや時限要素のアクション時に目的地が分からなくてゲームオーバーになってしまうことがしばしばある。
ゲームの印象でも述べたとおり施設内は一本道のフィールドなので迷うことはない設計で、なおかつ目的はこの手のゲームで何故かあることでおなじみの黄色のオブジェクトで表されているので基本的に迷うこともないようにはなっているはずなのだが、残念ながら暗くてその黄色のオブジェクトすらライトで照らさないと見えないケースが多い。
アクションでミスをするのならまだしも目的地が分からない状態で何度かやられてしまうのは、個人的には若干理不尽に思えてしまい、かえってストレスを感じることがあった。ゲームプレイにアクション性を求めるかどうかによって、この辺りの感じ方は異なるかもしれない。
ホラー要素について
前述のとおり普段あまりホラーゲームを遊ばないので他との単純比較はできないのだが、ウォーキングシミュレーター故にプレイヤー側の取れる手段は「逃げる」しかない。その恐怖感はなかなかのものがあった。
序盤は「何故か急に事故って施設が崩壊した」「何故か急に触手が出てきた」「何故か同僚がクリーチャーになった」という感じで何故何故の繰り返しで、理由の分からない恐怖が押し寄せてくる感じがとても凄い。
ストーリーが進んで中盤になってくるとクリーチャーや肉塊も散見されるようになってきて状況も少しずつ把握できるようになってくる。ただ今度は崩壊する施設内から巻き込まれるかもしれない恐怖や、先の見えない水場を溺れないように進んでいく恐怖などが襲い掛かってくる。
そして終盤は施設もほぼ全壊のような状態になってしまうが、未知の生命体である"The Shape"に完全に掌握されてしまったベイラDの様子は絶望以外の何物でもなく、まるでパニック系ホラーのような世界観へと変貌していく。
一つの恐怖が過ぎたらまた違い種類の恐怖が押し寄せてくる。そして徐々に脱出の希望が失われていく展開に心を休める瞬間がない。様々なホラー要素の詰め合わせと言った感じで慣れが発生しにくい、とても良いホラーであった。
ストーリーの印象
原因不明の恐怖ゆえの欠点か、一度クリアまで遊んだだけだと物語の全容を把握するのは難しいと思われる。
"The Shape"の正体自体が何も明かされないまま終わってしまうのでそもそもが謎を残すようになっているストーリーということもあるが、登場人物の会話やオブジェクトのテキストから読み取れる背景部分のストーリーも分かりにくい点が多い印象である。それは本作の紹介文などを見たときに必ず目に触れるであろう「訛りの強い九州弁」が一因となっているだろう。
元々本作の舞台がスコットランドなので登場人物の会話も所謂スコットランド・イングリッシュになっている。私は語学に明るくないので聞き分けることはできないが、スコットランド話者のプレイヤーの感想を見ていると好評なようなのでおそらく自然なスコットランド・イングリッシュなのだろう。日本語訳が九州弁となっているのは、翻訳者の方が日本語でも訛りを表現しようとして九州の方言を採用されたとのことである。
ただ、地元の方でもその訛りが強すぎると言われる程度には強い訛りだったようで、馴染みのない地方出身の私のような人にとっては訛りの強さが会話の理解を妨げてしまうのである。それが余計に物語の背景を分かりにくくしてしまっている。
また、登場人物についても名前を覚える前に被害者またはクリーチャーとなってしまうので、カズの悲痛な叫びほどに感情移入することが難しい。施設内にいる従業員たちと日常会話ができるのはヘリポートまで行くまでの序盤のわずかな平穏な時間しかなく、全員一度しか会話する機会がないのでこれだけでカズの四か月間(のうちの何日か?)を代替するのは厳しい。
これらの説明不足(そして訛りの強い言葉への理解不足)によって、背景を理解しきれないままに物語の結末を迎えてしまう。クリア後にゲーム中の会話を見返したりファンの様々な解釈を読んだりして、自分なりに物語を解釈できるようになってくると、その説明不足さに勿体なさを覚えるまである。
というわけで、次の項で私なりの物語の解釈についてまとめて、本レビューを終えることにする。
ストーリーについて、筆者なりの解釈
クリーチャー化の原因
ゲームを進めていると"The Shape"に襲われたらクリーチャーになるのだろうな、ということはなんとなく分かる。
しかしよくよく見返すと、掘削ドリルに巻き付くように現れる"The Shape"は物語が進むにつれて巨大化していくものの、明示的に"The Shape"が直接襲ってくる描写は(記憶している限りでは)ない。クリーチャーに作業員たちが襲われる描写は多々あるが、よくあるゾンビ映画のようにクリーチャーがクリーチャーを生み出しているとも思えない。(クリーチャーがクリーチャーを増やしていたら道中繰り返し見かける被害者たちがもっと襲い掛かってきたことだろう)
では、作業員は何故クリーチャーになってしまったのか?
"The Shape"からの襲撃後に会うフィンレイとの会話で「クリーチャー化したギボは石油のようなものを浴びてからおかしくなった」ことが示唆されている。その上で施設内にある"The Shape"の肉塊や触手をみると、石油のような黒く虹色に反射した液体にまみれていることも見受けられる。
つまりクリーチャー化の原因はこの"The Shape"の黒い石油のような体液であることが伺える。
本作の舞台は石油掘削施設である。施設内には石油(原油)があるのは自然なことであり、"The Shape"を覆う黒い液体が石油であるとミスリードさせているのである。(もしかしたら体液が石油のような外見なのではなく、石油の中に"The Shape"の体液が混ざっているということかもしれないが)
感染する主人公
崩壊がいっそう進んでくると施設内の浸水が発生するようになる。浸水は海水だけではなく石油も混在しているようでカズが水中を泳いで進んだ際に石油を口にして咳込む様子も描写されている。
この時点でカズが"The Shape"の体液に触れるどころか、摂取までしてしまっている可能性が非常に高いと予想できる。そして、カズはフィンレイとの会話から石油のようなものが原因であることを知っている。
ちなみに作中会話で触れられることはないが、最初の衝突直後に潜水艇に閉じ込められているラフスを助けようとする描写があり、後半同じ場所を通った時にはその潜水艇から飛び出すようにクリーチャーがあふれている様子も見受けられる。何故密閉された潜水艇の中にいるはずのラフスが感染するのか?
潜水艇であれば液体は通らないが窓があれば光は通る。
"The Shape"は眩いほどの光を放っており、"The Shape"やクリーチャーに近づくと視界が汚染されるような描写がある。もしかしたら"The Shape"の体液に触れなくても光を浴びるだけで感染してしまう可能性も考えられる。この感染経路があると仮定した場合も、作中カズは何度も"The Shape"に近づいており視界が汚染されている。
カズは気を失った時にスーズとの過去の会話を思い出す描写が節目ごとにある。
終盤になるとスーズとの会話は電話から聞こえたり、最後は移動中にも聞こえるようになってくる。カズは自分がおかしくなってきているのではないかと自問自答するが、何も考えないように自分に言い聞かせている。脱出手段が失われて久しく施設もほぼ全壊のような状況下なのでもう助からないという現実を考えないように言い聞かせているようにも思えるが、一方でカズは既に感染しており幻聴はその症状であるという現実も考えないようにしているとも考えられる。
確信する主人公
クリーチャー化した作業員たちは怒りの言葉を叫びながら襲い掛かってくる。そして、クリーチャーや"The Shape"に襲われた作業員はうわ言のように謝罪する声をあげている。精神を汚染された人間はまず罪悪感に心を侵されて、そして心が負けてしまうと憎悪に侵されてしまうのではないだろうか。
崩壊した居住区へ戻ってきたときに窓の外を見るとまずで合わせ鏡のように複数の窓が連続する奇妙な様子になっている。施設がどれだけ崩壊したとしても窓の外がこのような景色になるとは通常考えられない。つまり既に視界さえ現実のものではなくなっている。スーズとの会話が普通に聞こえてくるようになったように、汚染された視界さえも普通に見えてきているということである。
この頃には施設内が赤い光に染められているが一見すると非常ランプの赤さのように思えるが、当初施設内で白く光っていたはずのランプさえも赤く光っているので、ひょっとしたら赤い視界さえも幻視なのかもしれない。
そして感染した事実から目を背けながら施設内を走り回ってきたカズをフィンレイの最期の言葉がダメ押しする。カズがスーズとの会話の幻聴に襲われていたように、フィンレイは息子の声の幻聴に襲われ続けていたことを告げられる。(幼いころの息子とわざわざ説明される点から、大きくなった息子に対してカズ同様罪悪感のような感情を抱いているのではないかと深読みしてしまう)
最後の最後でカズ自身が苦しめられてきた幻聴が、フィンレイも同様の(しかし異なる人物の声による)症状に冒されている事実を告げられることで、感染によるものであることをここで確信させられるのである。
"The Shape"を刺し違えようとするフィンレイの最期の行動は、フィンレイ自身も既に感染を自覚しており助からないと確信したゆえの行動であることを理解する。そして、それはカズ自身も感染しておりもう助からないという現実の証明となるのである。
エンディングの会話
幻聴の内容は感染者自身が抱いている罪悪感に起因することは此処に至るまでのあらゆる描写で明らかである。
フィンレイが"The Shape"をこのまま放置すると石油リグ以外にも被害が及ぶことを広がることをカズへ告げることで、カズは"The Shape"による被害が妻スーズや子供たちへ及ぶことを瞬間的に想像したのだろう。家族を守るために、そして自分自身が犯した罪を償うために、フィンレイの提案を即座に受け入れたのだろう。
"The Shape"を包む爆発の中で聞こえてくるスーズのセリフは、これまでの険悪な口論から一変する。カズがスーズへプロポーズした時の会話、そして子どもの誕生という幸せな思い出へと変わる。これまでカズを苦しめ続けていた罪悪感が消えたということなのだろう。
視界が光に包まれると場面は変化して、カズがスーズを残してベイラDへ出発するシーンへと変わる。部屋を出るとその先は「何もない海」であり、これはカズが部屋を出た先に何もなかったということ、つまり「カズの死」を表しているのだろう。
海へと足を踏み入れると、聞こえてくるのはスーズからカズへの謝罪と愛の言葉である。カズの幻聴として聞こえ続けていたスーズの言葉はこれまでカズを批難する言葉であったため、ここできて初めてカズを批難しないスーズの言葉を聞くことができる。海へ足を踏み入れる=カズが死を受け入れることで、カズに浴びせられていた非難の声が消える=カズの罪悪感が消えるのである。
つまり、カズは赦されたのであった。

